路地裏の空

創作日記・乱調随筆

唐揚げ弁当

 

「唐揚げ弁当」
時折り、無性に食べたくなる。
最近は、近くのカリッジュに車を走らせる。電話注文はしない。店内で注文して10分少々待つけれども、それがまたよろしい。大きめの唐揚げと白飯、他には小さな付け合わせしかない弁当。

けれども、本当に食べたくなるのはカリッジュのではない。本当は「から吉の唐揚げ弁当」が食べたい。
(こんなこと書くと高知にいるMさんに叱られそうだ。もちろんカリッジュは最高に美味しい唐揚げ専門店です。マコリン)

5年以上前、最後の職場近くの生協スーパーの一画に外向きに造られた小さな唐揚げ屋さんが「から吉」。
私より一つ二つ、いやもっと上かもしれないおじさんが一人で始めた。ハーレーの小さな置きモノなど並べていて、尋ねてみると完全にバイカーだった。ちょっと矢沢永吉寄りの雰囲気をもち、少しダミ声でカッコいい唐揚げ屋のおっちゃん。どこかの会社をリタイヤして始めた感じだが、唐揚げは絶品だった。メシもおいしかった。揚げあがるのを待つ小さなイスがあるだけの狭い店内。客が3人も来ると.一人は外で待っていなくてはならない。
私一人が待っているときには、わりと気さくにツーリングの話などをしてくれた。東京にいる娘さん家族のことまで話してくれた。またいつか北海道にいくんだとか、この間の盆には孫の相手でつかれたとか。
たまにしか顔を出さないのに、気さくに話してくれた。
私が退職して一年ほどたったある日、急に食べたくなって寄ってみた。「お元気でしたか」。覚えてくれていた。見た目と違うとても丁寧なあの話し方も変わらなかった。

ところが、しばらくするとスーパー自体が撤退することになったと聞いた。

「あのスーパー、なくなりますよ」元同僚のメールで知った。「から吉はどうなるんやろ?」「先週、もう店は畳んでたそうです」

しばらくして立ち寄ってみると、跡形もなくなっていた。ネットであれこれ検索したが、これも跡形なかった。

誰かこれを読んで、ロックでバイカーなのに家族思いの優しい物言いの「から吉」のおっちゃんが、もしどこかに店を出していたなら、こそっと教えてください。お願いします。
とはいうものの、もう店はやってない気がする。どこかの道の駅で、古いハーレー停めて一服しているところに出くわす確率の方が高いかもしれん。「孫の面倒みに東京行ってるんですわ」とか言って。